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| 世界貿易センタービルと墓石 |

98年のOctober。エリスはNew Yorkにいたの。Ellis島から吹く風が少しだけ寂しくてちょこっとだけ小粋だったわ。エリスは移民と政府と奴隷の間で、生まれてはじめて苦悩した。でもその苦悩はまだとても幼くて、マンハッタンの海の濁りに簡単にかき消されてしまうほどごく小さいものだった。でも当時は、自由と民主主義が私をいまにも殺しにくる、そう感じて怖かったわ。

ツインタワーは絶対だった。絶対に大きな地震がこないと言われたマンハッタン島で絶対的に筋をとおして凛と立つ、人と金を吸い寄せ続けるビルだった。「世界」は貿易をしたがってるって、そう言ってるビルだったの。

エリスはよく覚えているわ。ゴテゴテの商品広告を纏ったほんわり浮かぶ飛行船は、人々を浪費の快楽へとサブリミナルに誘導するヘリウムの詰まった邪悪な小鳥だったということを。そして、世界貿易センタービルが水素鳥を見下ろしているその姿は、揺るぎのない資本主義による搾取の地獄を如実に表わしていたということを。

窓の外に見えるのが世界一自由な女性よ。エリスは彼女と、どちらが自己中心的かをくらべっこするために、しばらくのあいだ瞑想したの。そしたら、エリスはあっさり負けたわ。距離が遠すぎたから、勝ち誇る彼女の顔は見えなかった。でもそのときの高笑いは少し頭にカチンときちゃった。

展望台に着いたとき、もう水素鳥は見えなかった。鳥の目からみた摩天楼は、きっと墓石みたいに見えるんだろうな。
The memory of Ground Zero....(爆心地の記憶)
A little yellow bird drops lightly onto your memory.(一羽の黄色い小鳥があなたの記憶へと軽やかに舞い降りる)